常設展示
  
第2室: 
学術模型の世界       

 東大寺開山堂前身建物の模型製作工程
 開山堂は二月堂・法華堂のある一画に、これらと広場を隔てて向かい合って建っている。築垣に囲まれているので、普段は全体を眺めることが出来ないが、毎年12月16日の良弁忌に公開される。
 鎌倉初期、東大寺を再興した重源上人による前身建物は、東大寺南大門や浄土寺浄土堂と同じ大仏様という建築様式で建てられた。後に周囲に外陣が増設されて、方三間の現在見るような建物に改築されている。
 模型は、もとの独立した方一間の純粋な大仏様をもつ前身建物を製作した。なお、推定される復元形式は木瓦葺き・板軒で、大仏様の特色である鼻隠板のないものであったが、模型では本瓦葺きにし、桁から前は一軒扇垂木、先端に鼻隠板を入れて軒を支える構造にした。




吉岡充画 東大寺開山堂前身建築



檜材から作られた建築部材
 柱 

   垂木

   斗と肘木

    挿肘木
(1)柱の加工
 
柱は、角材に肘木、貫を通す穴をあけ、壁の板を嵌める溝を掘ったあと、一旦穴埋めし、カンナでまず角材4隅の角を落とし、多角形を経て丸柱に仕上げる。柱中程から上にかけて次第に細くなる。実際の建物と比べ模型では、屋根の重みによる上からの力がないので、柱下面に材を長く取って、開けた角穴に栓を打ち、基壇に引きつける工夫をしている。









(2)扇垂木の加工
 屋根を支える垂木の先端は鼻隠板に開けた仕口に入るよう突起を設ける。







(3)組物の加工
 部材の寸法精度は模型製作では重要。寸法のそろったパーツをたくさん作るときは、工具を工夫する。たとえば斗の曲面切削は、溝切りカッター刃の断面をグラインダーで斗のRにあわせて研磨し、 カッターを高速回転させて削りだす。 壁と接する
肘木と斗には、壁の板が嵌るように溝を掘る。本建築では、斗は皿斗付き、肘木に小斗が2個の双斗など特徴あるパーツがある。


(4)肘木の加工
 肘木の柱に入る部分は、細くなって柱に差し込まれる。他の肘木と交差する箇所は切込みを入れ、互いに噛合わされる。肘木先端グリグリ模様の木鼻繰型は、型板を作って型どりし同様のものを小刀を使って加工される。
    宝珠と海老錠

  
(5)装飾類
 宝珠と錠前は金メッキを施し、天蓋の蓮の花も彩色。



天蓋の装

 
隅部組付

(6)組立て
 隅部分の構造は左の写真のとおり。南大門同様、柱の間を通肘木が通り、構造強化されている。
 隅木の入る溝の工作は、小刀を用いて慎重に行なわれる。小刀は模型製作では重要な道具。小さな材の木口の仕上げなどは、治具に木口を沿わせ、小刀で行なわれる。


屋根葺き
(7)屋根葺き
 屋根瓦も木製。長く連なった状態の平瓦と丸瓦を造り、屋根の曲線は切り目を入れることで作りだす。
 隅部

   軒見上げ
(8)彩色
 彩色は水性塗料を用いる。着色は原則組立て前に済ませておく。






 縁下


完成した開山堂前身建物。よい建造物模型を作るためには、厳選された材料、よく研がれた刃物、そして技量が必要とのこと。
参考文献;国宝東大寺開山堂修理工事報告書
  
 文化庁選定保存技術保持者 建造物模型製作 和田安弘さん、和田有効さんの仕事

 外形はもちろん、構造や継手・仕口の細部まで製作される学術模型は、写真や図面以上に、形や構造技法の具体的な情報源として価値がある。また、模型をとおしての文化財建造物に対する理解と普及活動は、文化財保存にとって有効な手段ともなっている。平成6年4月、宮大工の和田安弘さんが、はじめて建造物模型製作の選定保存技術保持者として選定されている。
 

 朝日新聞社 週刊朝日百科 日本の国宝「お仕事は文化財」の取材を受けたときの写真。バックは建造物模型に本格的に取り組もうと決心したとき、弟の有功さんと仕事を半年間休んで制作した興福寺三重塔の模型。神戸三宮のオリエンタルホテルのロビーに長く展示されていた。
 



 和田さん兄弟が昭和41年、模型製作者としてのスタートとなった平城京内裏回廊模型と、30年後に子息の知也さんも加わって完成させた大作大極殿模型。平城京跡遺構展示館に並んで置かれている。(平城遷都1300年祭のイベントで展示替えあり)

     
   平成12年10月、姫路城三の丸広場で開催された選定保存技術保持者の集いで、雛壇に並んだ保持者の人たち。
 選定保存技術保持者のことを「技術の人間国宝」と呼ぶこともあり、文化財の維持・保存に卓越した技を発揮している。
 右から6人目、太鼓の前に座っているのが和田さん。原皮師の大野豊さん、文化財修理大工の松浦昭次さん、本瓦葺
 きの山本清一さん、建造物彩色の川面稜一さん、錺師の森本安之助さんたちの顔も。


 主な模型作品
   平城京内裏回廊、興福寺三重塔、一乗寺三重塔、薬師寺西塔、薬師寺金堂、浮石寺祖師堂、
    今西家住宅、金地院東照宮、
平城京羅城門、箱木家住宅、花田家番屋、山田寺金堂、浄土寺浄土堂、
    朝光寺本堂、古井家住宅、厚見寺廃寺五重塔、慈照寺銀閣、長寿寺本堂、春日神社本殿、
    大宰府政庁中門、東大寺南大門、青田家住宅、中村座、唐招提寺講堂、唐招提寺金堂、平城京大極殿、
    夢野台高校旧校舎、東大寺転害門、
崇福寺大雄宝殿、正倉院正倉、東大寺開山堂、苗村神社西本殿、
  
  
 平成3年完成の東大寺南大門模型。この模型は文化庁が製作する国宝、重要文化財建築模型の第29作目のもので、模型製作の正確を期すため、南大門に足場を組んで実測調査が行われた。時期は平成元年の冬、昭和2〜5年の解体修理時作成の図面を補足することを目的に東北隅の内外、妻飾り周辺部などを約2週間かけて実測した。模型では、妻部分が現状とちがい再建時の姿に復されている。写真の鬼瓦は、妻下り棟に付く予定であった4個の鬼瓦のうちのひとつ。




 模型における瓦も檜材で作られる。鬼瓦、鯱まで彫り上げ、細部までこだわるのが和田さんの流儀であった。本鬼瓦群は、平成16年9月竣工の正倉院1/10模型の四隅の棟に付けられたもの。この模型は完成後すぐに始まった第56回正倉院で初公開された。今も奈良国立博物館新館渡り通路の休憩コーナー前に置かれている。

56
 自然石の礎石に柱の下面を削って合わせる技法は、模型でも再現される。写真は正倉院の床柱据え付けの様子。
 
 
   
 花田家番屋模型。学術模型では、内部空間が見せ場となっている。通常は2〜3分割して作られる。本模型製作では、和田さんらは北海道留萌の現地まで出かけ、泊まりがけで建物の不明箇所を実測調査した。帰り際、市の職員から渡された修理工事報告書が模型製作に大変役立ったと話していた。

  
 和田有効さん製作の大山寺本堂模型(部分)。ドイツ人マイスター クリストフ ヘンリヒセンさんにプレゼントした日本建築模型。
ヘンリヒセンさんは、国宝金剛峯寺不動堂の修理工事にも参加した外国人。竹中大工道具館のビデオにもたびたび出場して、ドイツ風に押して使うカンナの実演をしてみせることで有名。

 

 
 朝光寺本堂模型。兵庫県立博物館所蔵の国宝建築の2分割模型。普段は半分だけ展示されている。兵庫県には国宝建造物が7件あり(姫路城天守閣、大山寺本堂、鶴林寺本堂、同太子堂、浄土寺浄土堂、一乗寺三重塔、朝光寺本堂)、鶴林寺本堂以外はすべて模型が作られている。このうちの4件が地元和田安弘さん、有効さん兄弟による。
 
 崇福寺大雄宝殿妻飾り











和田安弘さんは、平成19年3月11日に亡くなられました。
 

<参考資料>
  ・普請研究bQ8後藤治「東大寺南大門の化粧棟木と軒桁」

 ・和田建造物模型製作 業務内容